2006年6月に参加した黒部ルート見学会の記事です。
欅平(けやきだいら)駅から、一般の人は通常乗ることのできないトロッコ列車に乗り、わずか2~3分で次の”乗り物”へ。目指すはみゆきさんの歌ったあの場所。
秘境の地下ルート 黒部ルート上部軌道へ
いよいよこの見学ツアーのみどころ 上部軌道へ進んでいきます。
黒部ルートは、標高約600mの欅平と約1400mの黒部ダムを結んでいます。イメージしにくいので再びルートの断面図です。
私が参加したのは欅平から黒部ダム(図の左から中央)に向けて、標高差を上っていくルートになるのですが、少しずつ登るのではなく、一気に登るポイントが2ヶ所。
一気に200メートル上昇 竪坑エレベーター
竪坑(たてこう)とは、鉱山やトンネル掘削などの際、地表から地下に人員や資材を運搬するために垂直に掘られた坑道のこと。
この竪坑内にあるエレベーターは、見た目は普通のエレベーターです。それに一気に200メートル上るって、今の時代スカイツリーと比べたら大したことない!?なんて思いますが・・・
なんと、このエレベーター内にはレールが敷かれているんです。
エレベーターの上に「人荷用」と表記されていますが、この竪坑につながるトロッコの貨車ごと載せることができるのです。人間だけなら36人(30人参加の見学ツアーは一度に全員乗れます)が定員です。
このエレベーターを境に、下部軌道から上部軌道へと入っていきます。
なお、2019年現在この竪坑エレベーターに乗り竪坑トンネルとその先の展望台に出る有料の現地ツアー(黒部峡谷鉄道宇奈月駅発着)が開催されています。
一般開放に向けての前哨戦という感じのツアーですが、乗れるのは竪坑エレベーターのみです。
私が参加した2006年は、竪坑エレベーターも”レア”な乗り物でしたが、前述のことから少しレア感は薄れていますが、いよいよここから先は正真正銘見学会に参加した人以外は一般には立ち入ることのできないルートになります。
難工事を極めたトンネル内を走る上部専用鉄道
黒部峡谷鉄道(下部軌道)の車両よりもさらに小さく、普通サイズの男性が乗ってもかなり窮屈な感じの車内です。
まあ、スリムな私は全然余裕でしたけど・・・というのは嘘で(苦笑)一般的な女性でもほとんど身動きがとれず、当然写真を撮る余裕もありませんでした(>_<)
といってもトンネル内なので景色なんかな~んにも見えないんですけどね。
向かう先は、紅白歌合戦で中島みゆきさんが歌ったあの黒四発電所です。
6kmほどの距離なのですが約30分ほどかかります。
窮屈な車内ですが、途中下車してトンネルの外の黒部峡谷の秘境を眺望する時間が設けられています。電力会社関係者と登山者以外はなかなか見ることのできない風景です。
黒部峡谷鉄道から見た時より、さらに谷は深く、川の流れは急峻になっています。
知られざる難工事で完成した仙人谷ダム
1940(昭和15)年に完成したダムで、欅平近くにある黒部川第三発電所での発電に利用されています。
黒部のダム工事といえば「黒部の太陽」で一躍有名になりましたが、戦後に造られた黒部ダム(黒部川第四発電所につながるダム)の工事を題材に造られたものです。
こちらのダムはそれよりも30年近くも前、機械化もほとんどされていない中で作られたダムです。
黒部川の開発の歴史は、大正時代からはじまり、先人たちはこの急峻な崖を伝い人力で資材を運び、トンネルを掘りダムや発電所を作ってきたのです。
急峻な地形だけでもすごいのですが、この軌道があるトンネル内は当時160℃という高熱の岩盤があり、今の時代ではあり得ない過酷な労働条件のもと、特にこの付近では多くの犠牲も出ています。大量の出水に苦労した扇沢のトンネル工事のさらに上を行く悪条件。
車内ではこの説明もあるのですが、その様子は「高熱隧道」(吉村昭 著)という小説に詳細に描かれています。これを読んでいくと見学会で解説してくれる地名なども理解しやすくなります。
高熱隧道 小説の舞台で列車はゆっくりと
小説にも登場した「高熱の岩盤地帯」で、列車は速度を緩めます。窮屈なのと窓が曇ってしまってまったく写真が撮れませんでしたが(泣)、ちょっぴり窓を開けて外気に触れてみると・・・
ダム建設から50年以上たった今でも、そこは50℃以上、湿度もほぼ100%に近いという状態なので、数分その空気に触れただけでもサウナです。
100℃を超えていた工事では、作業員に水をかけながらの掘削が進められたそうです。こんな環境で力仕事をするなんて狂気の沙汰です。
狂気の沙汰ついでに小説のネタバレになりますが、トンネルを掘るために用意したダイナマイトがこの温度で「自然発火」して爆発しまうという惨事もあったそうです。
このような人々の苦労の上に、日本の土木技術の発達と安定した電力供給があることを忘れてはならないと思います。
「聖地」黒部川第四発電所に到着
とうとう到着しました。黒部川第四発電所(通称 黒四発電所)です。
見学レポの前に、しばし”紅白歌合戦の映像振り返りコーナー”です(笑)
この時計、2002年の紅白歌合戦で中島みゆきさんの中継とつながった瞬間に映ったアレです。それもほぼ同じ11時を指している(@_@)
さらに、オレンジ色の先頭車両が映ると同時に、「♪ドゥドゥンドゥドゥン ドゥドゥンドゥドゥン ドゥン・・・」という「地上の星」のイントロがはじまり・・・
そうそう、このオレンジの車両です~
そして、その後トンネル内にみゆきさんが登場~ という次第です。
あの瞬間、まさかこんなシチュエーションで中継するとは予想もしなかったのでひっくり返りそうでした(*_*;
せいぜい発電所内部かダムの管理所で歌うのが普通ですよね。っていうか、ここに行けばわかりますが、ただでさえここまでたどり着くルートが普通ではないのに、真冬に行くだなんて・・・
黒部の冬といえば気温はマイナス2桁、積雪も数メートルという豪雪地域です。
このトンネル内も氷点下だったと聞きます。その中であのドレス姿で歌うみゆき様のプロ根性恐るべし、です。
その上、生歌ですよ~(そこらのアイドルに聞かせてやりたいわ~)
さらにこのトンネル内、音が反響してしまってとても歌を歌うような環境ではなかったそうですが、1か所だけ音を吸収する場所が見つかったのだとか。それはこの位置から200メートルほど手前だそうで、残念ながらその位置に立つことは叶わず・・・(泣)
ダム開発の過酷な歴史とは比較にならないかもしれませんが、みゆきさんをはじめ、スタッフたちの苦労と覚悟が、まさに「プロジェクトX」の番組コンセプトを地で行ってます。これはひとつのストーリーとして語り継がれるでしょう。いや~、これ「プロジェクトX」の特番が1本作ってくれないかな?NHKさん。
そして、最大のオチは、みゆきさんが歌詞を間違えて「生歌」が証明されたということ。パッと歌詞(字幕)が消えたのも記憶しています。
そしてもうひとつ。みゆきさんの登場でひっくり返りそうになった出来事を。
この黒部ルート見学会参加からわずか3か月後の2006年9月、静岡県掛川市で開催された「吉田拓郎 & かぐや姫 Concert in つま恋 2006」で起こりました。
みゆきさんがサプライズで登場したのです。
この2006年は、私にとって ”みゆきさん伝説の地探訪” 大当たり年となりました。
みゆきさんのお話はこのへんで・・・ 本題に戻ります。
地下にたたずむ黒部川第四発電所
到着するとすぐに建物へ入ります。
発電所が地下にあるって意外かもしれませんが、この周辺は中部山岳国立公園内にあるため環境に配慮して施設が作られています。それに加え、外は豪雪地帯で雪崩や強風といった過酷な自然環境。かつて工事のためにつくられた宿舎は跡形もなく吹き飛んでいます(高熱隧道より)
とはいえ地下にいることを忘れてしまうような近代的な建物です。
会議室にてレクチャー
ここで30分近く黒部ダム開発の歴史などについてのレクチャーがあります。安全対策のためヘルメットはかぶったままです(笑)
ここで発電所関連の資料や記念グッズもいただきました。
発電設備を見学
私はダム好き♡(特に水力発電押し)なのでちょくちょくこのような設備を見る機会がありますが、やはり黒部の発電設備は規模が大きく感慨もひとしお。
記念撮影用のボードも用意されていました(笑)
黒部川第四発電所は、1961(昭和36)年に完成した発電所で、あの巨大な黒部ダムから水を引いて発電を行っています。4機のタービンがあり、最大発電量は33万5千kW。年間に10億kWを発電しています。
水の力でこのタービンが回ります
近くで見ると大きさと音に驚きます。
制御室
これ「ホワイトアウト」の映画セットみたいだわ~
でも、発電の規模の割には人も少なく小規模な感じを受けます。というのも現在は遠隔操作ですべて管理されているのです。
欅平出発ルートでは40分弱の滞在でしたが、黒部ダム出発ルートで参加すると、発電所での滞在が長くここで昼食(もちろんお弁当持参です)となります。
そちらのコースでは、みゆきさんが滞在した部屋や記念写真なども見られるそうで・・・ 今度は逆ルートで参加しなくっちゃだわ。
発電所の見学が終わり、黒部ダムへ向かって移動します。